なぜ虐待は負の連鎖が起こるのか?その心理とは?

虐待の負の連鎖はなぜ起こってしまうのか?
 
虐待の事件が起こると必ずと言っていいほど、虐待を与えた親への批判が集中します。

もちろん事件を見ると、その行為の酷さが際立ち、虐待された子がどれほど痛い、辛い思いをしたかと想像しただけで、その親への怒りが湧くのは当然だろうと共感できます。
 
しかしながら、批判をどれだけ重ねても虐待の件数は減るどころか年々増えています。
平成30年度に児童相談所へ寄せられた虐待相談は16万件を超えており、これも右肩上がりというデータも出ています。
 
つまり、虐待をする親を批判することに終始することだけでは、問題の根本的な解決に繋がらないということです。
 
虐待をしてはいけない。誰しもそれは思うことです。
むしろ虐待されて育った子ほど、自分が親になったら絶対に我が子には手をあげまいと思っています。それだけ辛く嫌な体験をしたのだから。
 
しかしながら、現実は理想どおりにはいかないものです。
両親に虐待され続け、食べられるものも食べられず施設で育った子が、今度は我が子を育児放棄し餓死させたという事件もあります。
 
まさに「虐待の負の連鎖」です。
 
この構造を心理的に理解しないと、虐待の連鎖は断ち切れません。
愛情たっぷりの家庭で育った子が、我が子を虐待したという話は耳にしたことがありません。
 
問題のカギは「愛着形成」にあります。
 
その説明の前に厚生労働省における児童虐待の定義を挙げておきます。
 
〇身体的虐待
その殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束するなど
〇性的虐待
子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にするなど
〇ネグレクト
家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど
〇心理的虐待
言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行うなど
 
どの虐待も酷いものですが、「心理的虐待の割合」が最も多いです。
 
さて、「愛着形成」がカギだと言いましたが、それはなぜでしょうか?
 
おぎゃぁと生まれた赤ちゃんは当たり前ですが、一人の力では生きていくことができません。そこには必ず養育者の存在が必要です。
お腹が空いて泣いたらお母さんがおっぱいをくれ、寂しく泣いたらお父さんが抱っこしてくれる。
すべてが未知の世界の中でこのように自分の欲求を叶えてくれたり、スキンシップしてくれることで、脳内に「幸せホルモン」と呼ばれる「オキシトシン」が分泌され、情緒面の安定や発達に良い影響を与えてくれるのです。

心理学的には「基本的信頼」といって、人を信じるという人間関係の土台、基礎がそこで作られると考えられています。
この一連の行為の流れが上手くいくことを愛着形成と呼ぶのです。
 
それとは対照的なのが「愛着障害」です。
養育者が様々な理由で上記のような愛着を育む行動ができないと、子どもは情緒面が不安的になり、基本的信頼ではなく、人に対し不信という感覚が身についてしまう。

つまり、愛着形成が上手くできず、精神面の発達に良い影響が得られず、後々様々な困難が生まれる状態が「愛着障害」です。
様々な困難には、人間関係が上手くいかず転職を繰り返す、精神疾患を発症しやすい、自信が持てない、何かに依存してしまうなどが挙げられます。
 
愛着形成がいかに大切かがわかって頂けると思います。
 
では、それがなぜ虐待に関係があるのか?
 
いよいよ問題の核に迫っていきます。

虐待された子は、圧倒的に大切な愛着形成が上手く根付きません。親の暴力で怖くなったり、育児放棄され不安になったり、暴言や人格否定によって自信をなくしたり。
自分の存在が大切にされない、愛されていないという感覚は、心の奥底に深刻なダメージを与えます。

そして、人間関係の基本である「人を信じる」という感覚が身につきにくいのです。
そうなると、親にも愛されない私を、他人のあの人が愛してくれるはずがないと思い込んでしまうのも無理はありません。
 
では、なぜその流れでなぜ負の連鎖が起こってしまうのか?
 
一つは、パートナーとの結びつき方です。
他人を信じられないという反面、愛には飢えています。自分に自信も持てていません。なので、相手が軽い男性、体目当ての男性、支配欲の強い男性などでも、声をかけられたり、好意をよせられるとついていってしまうケースが多々あります。性別が逆も然り。

「そこに愛はあるんか?」とどこかのCMで聞いたことのあるセリフを言いたくなってしまいますが、本人にとって愛の嘘か誠かの判別がつかないので、パートナーで失敗することが多いのです。
 
また、共依存といって愛のカタチも特殊なものになりがちです。
相手と付き合ったとしても、いつか自分を見捨てるのではないか?他に女(男)がいるんじゃないか?愛がないんじゃないか?といった不安に耐え切れず、相手を束縛したり、監視したり、しがみついたりと、いびつな関係になっていきます。

精神的に自分の足で立てないと、相手に寄り掛かるしかないため、例えパートナーがDV気質であろうが、ヒモ体質であろうが、ギャンブル癖があろうが、それを許すしかない状況下では、互いに共依存の関係から抜け出せなくなります。
 
もちろんどちらか一方が自立していたり、自覚し改善しようとできれば、脱却できる可能性もありますが、自立しないように(されると離れていくと不安になるため)、互いに足を引っ張りあうという事態も起こりやすいです。
 
その不安定な関係が続く中、どちらかがDVの被害者になり、その不満や怒り、悲しみが、自分よりも弱い存在、つまり自分の子どもに向いてしまうケースがあるのです。
 
もう一つは、「モデリング」です。
 
人は自分のされたことを真似るようにできています。
初めは反射のように笑ったら笑い返すなどがあり、養育過程の中で親の仕草や言葉を模倣するようになります。
 
もし虐待をする親の元で育つと、しつけと称して叩く、蹴るなどの暴力を受け、気に食わないと罵声を浴びせられるなどの悪行を知らず知らずのうちに学んでいきます。

実際にスタンフォード大学の実験で、子供Aグループ「大人が人形に暴力をふるう」Bグループ「大人が人形で遊ぶ」という2つの映像を見せた後、子供たちが実際におもちゃで遊ぶ場面の中で、Aグループの子たちの方が暴力行為を示したというデータがあります。
 
つまり虐待をする親の環境下にいると、それを無意識に影響され、模倣し、虐待する下地が形成されることになってしまいます。

もちろんその悪環境の中でも、自立し人に優しくなれる子も出てきますが、たいていはあれほど嫌だったはずの親に似てしまうという結果を迎えます。
 
説明が長くなりましたが、虐待の構造が心理的にわかって頂けたかと思います。
そして、虐待の根の深さがこんなにもあるものかと知れたと思います。
 
つまり、虐待は一人だけの力ではどうすることもできません。

もう絶対にしない!あんな嫌なことを自分がするなんてあり得ない!今度から絶対に優しく接しようと心に誓っても、またやってしまった・・・というケースはいくらでもあるのです。
 
では、どうしたらよいのか?

まずは一人で抱えないということです。そして自分を責めないことです。

いくら自分を責めても、それがストレスとなって心にたまります。そのストレスが抱えきれなくなった時、ネグレクト、育児放棄という行動に繋がりかねません。
パートナーも同じ成育歴の可能性もあるので、相談相手としてはあまりお勧めできません。
 
できれば、虐待の問題に精通している人、心理カウンセラー、精神科医、児童相談所の職員などに助けを求めることがベターです。
「189」という虐待相談ダイヤルも設けてあります。
敷居が高いと思われがちですが、そうやって苦しんでいる人のために彼らが存在しているのです。

僕も一カウンセラー、一人間として、そういう人の苦しみが少しでも楽になればと思い、日々活動しています。この文章を書いているのもその一環です。
 
虐待の問題には、共依存、精神疾患、アダルトチルドレン、パーソナリティ障害など様々な障壁が絡んでいます。
繰り返しになりますが、自分ひとりで決して抱えず、戦わず、責めず、専門家の助けを借りてほしいと思います。
 
長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
 

2 件のコメント

  • とても参考になりました。悲しい事に言葉の暴力、体への暴力があり、ずっと耐えたのですが、ある日、糸が切れて家を出てしまいました。
    罪悪感はありますが、後悔はありません。
    はりつめていると、ある日爆発しますね。特にパートナーからの暴言は自己否定ばかりします。生きていてよいのかさえわからなくなります。

    • STさん
      コメントありがとうございます。
      参考になったようでよかったです。

      DVの相談や様々な体験談を聞くと、耐えて解決したというケースは皆無に近いです。
      相手の思考行動パターンが劇的に変わること、こちらの態度を一転すること、それらが噛み合わない限りは、離れる選択が良いのかと思っています。

      あとは、それによって自己否定の感情に苛まれることが多いんですが、それは自分のせいではありません。
      自分を責めることをやめることに力を注ぐことをおすすめします。

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